「ねえ、ご飯、ちゃんと食べてる?」 いきなり、あかりがそんなことを訊いてきた。 「あん? なんだよ急に」 「だから、ご飯、ちゃんと食べてるのかなーって」 「食ってるよ、そりゃ、当然」 「ううん、そうじゃなくって、食べてる内容のこと。 ちゃんと栄養のあるもの食べてる? 例えばゆうべはなに食べたの?」「ゆうべ? ええっと、そうだな、ゆうべはたしか、駅前のコンビニで買った…」 「…カップラーメンとか?」 「おっ、さすが、よく判ってんじゃん」 オレがそう言うと、あかりは上目づかいで苦「…そうやってカップラーメンばっかり食べてると、そのうち体こわしちゃうよ?」 「…ばっかりって、昨日はたまたまそうだったんだ。 べつに毎日食ってるわけじゃねぇさ」 「本当に?」 「そりゃそうさ。 いくらオレでも毎日ラーメンばっか食ってたら飽きるしさ」 「そっか。 じゃあ、おとといはなにを食べたの?」 「カップうどんかな。 で、その前が、カップ焼きソバだったかな、たしか」 「……」あかりは、心配そうな顔をした。 「駄目だよ、そんな。 もっと栄養のバランスを考えて食事しなきゃ…」 「栄養? ああ、そのへんは大丈夫。 抜かりないぜ。 そこを補うように、ちゃんと栄養のあるモン食ってるからさ」 「…本当に?」 「ああ」 ブロックタイプのバランス栄養食とかな。 オレは心の中で付け加えた。「なんだか心配だな…」 「なんだよ、今日はいつになく口うるせーな」 「だって私、ちゃんのこと、いろいろとおばさんに頼まれてるし…」 「んな約束、テキトーに聞き流しときゃいいんだよ」 「…だけど、ちゃん、昔から面倒くさがりだし、片寄った食事ばっかりして、栄養失調とかで倒れたりしたら困るし…」 あかりは、ぼそぼそと独り言のように呟いた。 「…あのなぁ、お前。 …オレのこと、いったいどんなだらしのないヤツだと思ってんだ?」 「そういうわけじゃないけど…」少しなにかを考えてから、あかりが言った。 「…ねえ、ちゃん。 もしよかったら、またこの前みたいに、私がご飯を作りに行ってあげようか?」 上目づかいにオレを見て、照れながら微「なんだよ、お披露目したい新しいレパートリーでも増えたのか?」 「うん。 いろいろお母さんに教わったりしてるから。 ちゃんからも、なにか作って欲しいリクエストがあれば、それも練習しておくよ」 そう言って、あかりはにっこりと微…相変わらず、世話好きなヤツだ。 小さい頃からそうだった。 べつにこっちが頼んだわけでもないのに、なにかとオレの世話を焼きたがる。 オレにとって、そんなあかりは言うなれば、面倒見が良くて世話好きな妹って感じだ。 ときどき妙にお姉さん風を吹かせることもあるが、日頃の付き合い方からしても、やっぱりオレが兄貴で、あかりのほうが妹だろうな。 実際、オレの方が半年ほど年上だし。知らず知らずのうちに、あかりの顔を見て微──春が、すぐそこまで来ていた。「風、また少し暖かくなったね」 ゆるやかに吹く風を受け、髪を押さえながらあかりが言った。 高台にある学校へとどこまでも広がる、限りなく澄んだクリアブルーの空。 両手を伸ばせば、体ごとその青に溶け込んでしまいそうな…んな気がした。──春。 それは新しい出逢いの季節。 この春、オレはどんな出逢いをするんだろう…?オレたちの通う学校は、この坂を登った高台の上にある。 だから朝は、てくてくと、この長い坂道を登らねばならず、それが結構しんどかったりする。 とはいえ、都会のわりには広い校庭があったりと、施設や環境はまずまず悪くない学校なので、この程度のことぐらいは目をつぶることにしている。8時22分。 あと3分ほどで予鈴が鳴る。 坂道は制服姿の学生たちで埋め尽くされていた。楽しげなお喋りに花を坂の上ら辺まで来たとき。 「ねえ、ちゃん、あそこにいるの、志保(しほ)じゃない?」 あかりが、前を歩く背中を指差して言った。 前を見ると、たしかに見慣れた後ろ姿があった。 中学の頃からの付き合いだ、いまさら見間違うはずもない、志保だ。 オレは早足で近づき、ぽんと、肩を叩いた。 「おっす、志保」悸C「げっ、!?」 こっちを振り向いた瞬間、志保は表情を凍らせた。 「な、なんだよ」 「──ってことは、やばっ、遅刻だっ!」 「…おい、コラ、それが第一声か」 オレは細めた目で睨んで言った。 「時計を見ろ、時計を。 まだ時間あんだろが」 C甘あらホント。 じゃあ、時計が遅れてんのかしら」 「オ「いったいいつの話をしてんだよ。 オレが遅刻ばっかしてたのは中学の頃だろ。 最近は「ったく、オメエの性格の悪さは天下一品だな。 だいたい、フツー朝会ったら、まずは──」 C吹やっ、おっはよー、あかりっ」 @寺おはよ」 志保はオレを無視して、あかりに挨拶する。 「…のやろぉ」 オレはひきつったあかりと志保、まるっきり性格も違うこのふたり、なんでか妙に仲がいい。 お互い馬が合うらしく、中学の頃からずっと仲良く付き合っている。 C伯それにしても、あんたたちって、相変わらず仲良く一緒に学校来てんのねぇ」 @賢まあ、家を出る時間がだいたい同じだから…」 あかりがぎこちない「はは~ん、なるほど。 わかった、それでかぁ」 なにやら、突然ひとり納得する志保。 「なんだよ?」 「最近、が遅刻しない理由がわかったのよ」 「理由?」 「そ。 結局、毎朝あかりがしっかりと面倒みてるから遅刻しなくなったわけね」 …うっ。 「朝も起こしてもらったりしてんじゃないの?」 今朝のこともあるし、否定はできない。「やっぱりそうなんだぁ。 ねえ、ねえ、もしかして、ベッドまで起こしに行ったりしてるワケ? そんで、目覚めにチューとかしたりしてぇ」 志保が楽しそうにニヤニヤ「…へえ、そうなんだぁ~、ふ~ん」 「ちゃんと聞いてんのか」 別名『歩く校内ワイドショー』の異名を持つ志保は、その名の通り、おしゃべり大好きオンナだ。 日頃からウワサ好きな仲間たちと妙なネットワークを形成していて、学校中の情報を交換しあったりしている。 こういうことは、早いうちに釘を刺しとかないと、おひれはひれのついたウワサ話となって、またたく間に全校に広がっちまう。「おい、志保。 また、ありもしないことをペラペラと喋るんじゃねーぞ?」 Cふっふっふ…」 「なんだよ、その「それにしてもあかり、あんたも大変ね。 毎日こんな甲斐性なしの亭主の面倒見なきゃなんないなんてさ」 @伯て、亭主って、志保…」 「おい、誰が甲斐性なしだ?」 C伯当然あんたに決まってんでしょ。 わざわざあかりに起こしてもらってるなんて、しょうがないわねぇ」 「今日は、たまたま寝坊したんだよ」 「たまたま? 『いつも』の、間違いでしょ?」 @賢ううん、本当だよ、志保。 こう見えてもちゃん、意外にしっかりしてるんだから」 「『こう見えても』と『意外に』は余計だっつーの」@キーンコーンカーンコーン。 そのとき、学校の校舎から5分前を知らせる予鈴が聞こえてきた。 C苛あっ、いっけなーい、遅れちゃうわ!」 志保が、ポケットから取り出した腕時計を見ながら言った。 C痴ほらぁ、アンタに関わると、やっぱり遅刻するんだから!」 「オメーがぺらぺらと喋ってっからだろ!」 @峻それよりも、早く急ごうよ」乗全力疾走で校門前までやってきた。 「ちょっと待ちなさいよ、この薄情者ぉ~っ!」 「まってよぉ、ちゃ~ん!」 後ろから情けないふたつの声がする。 …ったく、あいつら、足が遅え。 「おめーら、運動不足なんじゃねーのかぁ」 校門をくぐりながら、後ろのふたりに向かってそう言ったとき──。どかっ!!「……!」 「あうッ!」乗肖前方不注意だったオレは、前を歩いていた見知らぬ女子に、勢いよくぶつかってしまった。 向こうは女のコだけに体重も軽く、ぶつかったというよりも、一方的にこっちが相手を突き飛ばした形になってしまった。 オレは微妙に体勢を崩すものの、難なくステップで持ちこたえ、一方相手の女子は、なんの抵抗もなく倒れ、地面に尻餅をつく。楼肖「わ、わりぃっ! 大丈夫か!?」 オレは、とにもかくにも、すぐに謝った。 …あちゃ~、やっちまったぜ。 持ってた鞄があんなとこまで飛んじまってる。 「ご、ごめん、カンペキこっちの不注意だ」 オレは頭を掻きながら女子に近づいた。 「……」 最初に目にとまったのは、艶やかな黒髪。 ゆるやかにウェーブがかった長い髪が、眩しい朝の陽射しを跳ねて柔らかく輝いて見えた。 「…う」 す、すげー美人って感じ。見たこともない女子だった。 なんだか、ちょっと大人びた雰囲気がある。 上級生…か? 「……」 女子は、倒れたまま、きょとんと、なにがあったのか解らないような顔を向けていた。 「…ごめん、「あの…、もしもし?」 「……」 投げかける、無言の視線。 「な、なに?」 「……」 よく分からないまま、ただなんとなく見つめ合ってしまうふたり。 「……」 「……」 ──はっ!? 早朝の玄関前で、いったいなにやってんだ。 思わず、ミョーなノリに付き合わされちまった。「とにかく、…ホレ、掴まりな」 オレはそう言って、片手を差し伸べた。 「……」 伸ばしたオレの手の先を見つめる彼女。 だが、掴まろうとはしない。 「ホラ?」 「……」 もう一度呼び掛けると、再びオレの顔を見た。 なんだよ、変なコだな。「ホレ、掴まれってばっ!」 さっきよりも強めにうながすと、ようやく女子は、コクンとうなずいて従った。 ゆっくりオレの手を握る。 オレは彼女の手を引いて、起き上がらせた。情看岐肖「わりぃな、ホントに。 ふと見ると、彼女のスカートに、チラチラと細かい砂が付いている。 「あ、そこ、汚れてるぜ」 オレが指差すと、 看賢……」 女子はチラッとそれを見たものの、とくに払おうともせず、またこっちに視線を戻した。 「…ホラ、そこ、汚れてるって」 「……」 「あの、もしもし、聞こえてる?」 「……」 無反応。「あ~っ、もうっ、気になるっ!」 イライラしたオレは、手で彼女のスカートの汚れを払った。 ぱんぱん。 「はい、鞄」 ついでに鞄も拾ってやって、それを手渡した。 看甘……」 女子は、無言でそれを受け取った。「…あの、もしかして、怒ってる? 怒ってるから、口聞いてくんねーの?」 そう訊くと、彼女は首を横に振った。 「べつに怒ってないって?」 コク。 うなずく。 「……」 まっ、本人がべつに怒ってないって言うんだから、もういいか。「ちゃ~ん、遅れちゃうよぉ」 そのとき、玄関の方から、オレを呼ぶあかりの声が聞こえた。 「…あっ、やべっ。 もうすぐチャイムが鳴っちまう。 あんたも急いだほうがいいぜ? じゃあな、ホント、悪かったな」 「……」 オレは片手を上げると、じぃっとこっちを見つめる彼女に背中を向け、その場を後にした。呑靴を履き替えて、廊下に上がったとき、 @甘ねぇ、ちゃん。 …来栖川(くるすがわ)さん、転んで「はっはっはーっ! 無知は罪なりよ、!」 C甘んなセリフとともに現れたのは、志保だ。 「ウチの学生でありながら、お嬢様中のお嬢様、来栖川芹香さんを知らないなんて、アンタ、いくらなんでも、ちょっとヤバイわよ」 「オメエには訊いてねーよ」 C賢なによぉ、ひどい言いぐさねぇ。 なんにも知らない可哀想なアンタに、わざわざ教えてあげようっていうのよ?」 「ホントは説明を聞かせたくてウズウズしてんだろ? 目が輝いてるぜ」C「まあね。 学校内の情報をみんなにお伝えするのは、あたしのステータスだからね」 「…くだんねーことに青春燃やしてんじゃねーよ」 「あんたも知りたい情報があったなら、なんなりと、この長岡志保ちゃんに聞きなさい。 志保ちゃんネットワークは、ありとあらゆる情報のホットステーションなのよ@」 「はいはい…」 オレは呆れた顔で、ぞんざいな相づちを打つ。C「じゃあ、教えてあげる。 来栖川先輩の来栖川って、来栖川電工とか、来栖川金属とか、来栖川銀行とかのあの来栖川なのよ。 来栖川グループって知ってる?」 「そりゃ、知ってるけど。 へぇ、あの来栖川か?」 「そう、独占資本主義が生んだ巨大なコンツェルン、テレビでもラジオでも、バンバンCMやってる、あの有名な来栖川グループよ。 そこの会長さんが、なにを隠そう、芹香さんのじつのお爺さまだっていうから、驚きでしょ!?」「…と、いうことは」 「そう、アンタはさっき、いわば日本経済界のプリンセスとも呼ぶべき彼女を思いきり地面に突き飛ばしたのよっ」 「げっ、そうなのか?」 C伯…ふふふ、あんた、今夜あたり、黒服の男達に命を狙われたりするかもね?」 志保は目を細めて、いっひっひ、とそのとき、物騒な話を切り上げようとするかのように、あかりが割って入ってきた。 @寺それにしても来栖川さんって、やっぱり美人だよね。 あの綺麗な髪とか、いつ見ても憧れちゃうなあ」 C甘そりゃあ、お嬢様だもん、般ピーとは一緒にしちゃダメよ。 …けどさ、あまり大きな声じゃ言えないけど、あのお嬢様、なんかかなりの変人らしいわよ」 志保が声をひそめて言った。 @甘え?」 C伯同じ二年の人に聞いた話なんだけど、あのお嬢様、小さい頃から妖しいオカルト関係とかにハ「オカルト関係?」 「うん、黒魔術とか降霊術とか、そういった類のヤツほぼ全般。 ホラ、うちの学校の文化部にさ、なんでかよくわかんないけど、オカルト研究会っていうクラブがあるじゃない? 知ってる?」 @@うん、知ってる」 「なんでも来栖川さん、その妙なクラブの部員らしいのよね。 やっぱ、筋金入りのお嬢様だけに、趣味とかも常人とはかけ離れてたりするのかしらねぇ」「ほほう、オカルトか」 あの、ぼーっとした感じのお嬢様にそんなヤバイ系の趣味が? 「結構、いいかもな」 C甘なによ。 まさか、アンタまでそういうのに興味あるとか言い出すんじゃないでしょうね?」 「なんで、いいじゃん、オカルト。 秘術的学問たぁ、じつに金持ちらしい、ハイセンスな趣味じゃねーか」 「…ハイセンスぅ?」@キーンコーンカーンコーン…。 8時30分を告げるチャイムの音。 C@あっ、やばっ! ホームルームが始まっちゃうわ! ウチの担任、遅刻チェックに命懸けてるのよ! 早く行こっ」 IB保が急かし、3人は駆け足で廊下を移動した。縛階段を昇った2階が一年の教室だ。 二年の教室はこの奥で、三年は3階にある。 @寺じゃ、ちゃん、ここで」 にこっと「しっかり勉強しなさいよ、。 授業中寝てばっかじゃ、アンタだけ二年に上がれないわよ」 「ケッ、落第候補ベスト10入りのお前に言われたかねーぜ。 オレのことより、テメーの心配をしやがれってんだ」 C痴な、なんですってぇ~」 @賢ま、まあ、まあ、ふたりとも…。 ホラ、志保。 もうすぐ先生が来ちゃうよ、早く行こ」 「ちょっとまってよ、あかり。 せめてこいつに──」 ★ぎゃーぎゃー騒ぎ「さーてと…」 うるさいのを見送って一息つくと、オレも自分の教室へと入った。還さいわい、先生はまだ来ていないらしく、教室の中はワイワイと賑やかだった。 ウチの担任の山岡センセは、結構ルーズな性格で、ホームルームには大抵いつも遅れてくる。 まあ、こっちはそのほうが助かるけど。 オレは自分の席へと向かった。 その途中。観「ハァイ! グッドモーニン、!」 いきなり明るく声を掛けてきたのは、クラスメイトの宮内(みやうち)レミィだった。 陽気で明るい彼女は、なんとカリフォルニア生れの日系ハーフで、三年前に家族で日本へ移り住んできた、モノホンのパツキンガールだ。 「おっす、レミィ、グッドモーニン」 オレは下手くそな英語と「、先生は来てないけど、遅刻だヨ。 もっと早く来ないとダメだヨ」 「そう言うなよ。 今朝はちょっとしたアクシデントがあったんだ」 「accident?」 「そうそう、来る途中、事故に遭っちまってさ。 前方不注意で正面衝突だ」 観苛ショーメンショートツ!? 、自動車にハネられたの!?」 「違う、違う。 人間同士だ、人間同士」 観賢なんだ、ビックリした」 レミィはホッと息を吐いた。「まっ、大した勢いじゃなかったし、ケガもなかったけど、相手に謝ってたら遅れちまった」 「…、アンラッキーね」 「いや、でも、考え方によっちゃラッキーだったかもしれねーな。 なんせ、ぶつかった相手は、美人の先輩だったからな」 観@なんで? 相手が美人だったら、ぶつかっただけでもラッキーなの?」 「まあな。 ドラ「だけど、気を付けなきゃダメだヨ。 今日はたまたまケガしなかったけど、次はするかもしれないヨ?」 「なんだ、オレを心配してくれんのか?」 観@トーゼンでしょ。 classmateダヨ?」 …classmateか。 本場仕込みの英語で言う『classmate』は、日本語のクラスメイトとは、不思議とその意味さえも違って聞こえる。 より深い仲間意識を感じるというか。「そっか、サンキューな」 オレが言うと、レミィはにっこり自分の椅子に、どっかと腰を下ろしたとき、 貫@おはよう、」 ──と、声を掛けてきたのは、あかりにこのオレとは幼稚園に入る以前からの付き合いで、なんていうか、弟みたいな存在だ。 実際、オレとあかりと雅史の3人は、小さい頃から兄弟のように仲良く付き合ってきた。 構図的には、オレが一番上の兄、真ん中があかり、一番下が雅史といった感じ。 もちろん今もその関係は「はい、これ、ありがとう」 雅史はそう言って、CDケースを差し出した。 見覚えのあるジャケット。 この前オレが貸してやったCDだ。 「おう、そういや貸してたっけ。 どうだった?」 貫甘うん、良かったよ。 MDに落としちゃった」 「とくに2曲目と3曲目がいいだろ?」 「あと一番最後の曲も。 あ、そういえばもう一枚の方だけど、志保が貸してって言ってるけど、いいの?」 「一泊50円でいいんならって言っとけ」オレ、あかり、雅史。 そして、中学の頃から志保のヤツが加わって、いまのお馴染み4人の顔ぶれになった。 その4人が揃ってここを受験したのが、今からちょうど一年前。 大きく遅れを取っていたオレと(それ以上の遅れを取っていた)志保が必死の追い上げを果たし、何とか全員無事に合格した。 そして迎えた学生生活も、早いものでもうすぐ一年目が終わろうとしている。@…ガラガラ。 そのとき、戸が開いて、山岡センセが現れた。 「よ~し、みんな、席に着けぇ。 出席をとるぞ~っ」 「…じゃあ、さっきの、志保にそう言っとくよ」 謙雅史はそう言い残して自分の席に戻った。環そして、ホームルームが始まった。 いよいよ一年も最後の一ヶ月か、早いもんだ。